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額田王と大海人皇子の例の歌(前置き)

お久しぶりの万葉歌語りです。
まずは次の歌をお読みください。

あかねさす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る
(巻1二〇額田王)

紫草の にほへる妹を 憎くあらば 人妻ゆゑに 我恋ひめやも
(巻1二一大海人皇子)

ご存知のお方も多いでしょう。
現代においてはおそらく万葉歌の中で最も有名な歌といっても過言ではないかもしれない、額田王と大海人皇子の恋歌。
訳はおおむね以下の通りです。

額田王
あかね色に匂う紫の草の生いしげる標野をあちこち行き来なさりながら、あなたは盛んに袖を振っていらっしゃる。まあ、そんなことをなさって、野の番人に見つけられませんか。
(永井路子・著「万葉恋歌」より引用)

大海人皇子
紫の美しい色のように、匂いやかな、あなた・・・もし、あなたのことが憎らしかったら、何もこんなふうに恋い慕いはしませんよ。もう人妻になっているあなたなのに。
(同上より引用)


細かい部分では少々論争があるかもしれない訳なのですが(「あかねさす」を枕詞ではなくそのまま訳していたり、「紫野」を紫草の野ではなく「紫色の花が咲く野」ととっていたり。間違いではありませんが、王道の解釈とは言い切れないところもあります。私はこの解釈好きですが)、今回はスルーします。
とりあえず、歌の大意をご覧ください。
この当時、額田王は天智天皇の妃の一人であり、大海人皇子は彼女の昔の恋人という関係です。
二人も含めて、宮中の大勢で薬狩りという遊興にやってきています。
そんなたくさんの人たちが楽しく過ごしている中で、天皇の妃の一人が昔の恋人からアプローチされていたという、一種の高貴なお方々のスキャンダルともいえる場面です。
実際はおそらく宴の席での戯れの歌だったのだろうというのが現在の定説のようですが、恋人同士だった二人が夜の宴の席で、大勢の人を前にこんな歌を詠み交わし合ったとしたら、それはそれは盛り上がったことでしょう。
実はこの二首は、そのインパクトの大きいシチュエーションも手伝って、万葉歌を紹介する本のほとんどに載っています。
ネタを限定している本でもない限り、一般向けの万葉本にはたいてい載ってるんじゃないかって思います。
・・・載ってない本、無いんじゃない?(言い過ぎか)

そんな歌なので、私としては本を読んでいても「額田王」「あかねさす」と見ただけで、

「ああ、例の歌か。知ってるよ」

だってみんな同じこと書いてるから!(※一般向けのものはどうしても二人の関係や当時の習俗の説明に紙面を割くことになるので、書き手の方の技量とか知識とか個性などのせいでは決してないのですが)
若干食傷気味になっていても致し方ないじゃないか!

そんな私が、この歌にもう一度出会いなおすことになった話を、ぜひ聞いてほしい。
話というか、思いつきというか。

いやあ、長かったですね、この前置き(何だって)
次の記事で結論を書きます。
その記事だけ読んでも分かるように書きたいと思います。
じゃあなんでこの記事書いたのか?
それは私のこの歌への思い入れを書きたかったからです!

それでは次の記事で!

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