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ヤマタノヲロチ神話!その三~スサノヲとクシナダの結婚とヲロチ退治~

続きです!
スサノヲのトンデモ発言にご注目!
恐ろしい化け物ヤマタノヲロチの話を聞いたスサノヲの反応は・・・。

(しか)くして、(はや)須佐之男命(すさのをのみこと)、その老夫(おきな)(のりたま)ひしく、
「この、汝が(むすめ)は、(あれ)(たてまつ)らむや」
とのりたまひき。

須「娘を嫁にくれ(突然)」
足「!?」


ちょwww
この場面でいきなり妻問いて!
ちょっと今の感覚では驚きますよね。
普通のヒーローは化け物を倒した後にお姫様と結ばれるのが定石。
百歩譲って「退治したら、娘をくれ」という約束をするのならまだわかりますが、ここでは「今嫁にくれ」と言っています。
退治する前に嫁に求めるなんて、もしやスサノヲはクシナダにいきなり一目惚れでもしたのでしょうか?
それはそれで個人的には大変萌えるのですが、残念ながらそうではありません。
これにはスサノヲなりの深いわけがあるのです。
とりあえず、続きを見てみましょう。
いきなり娘を嫁にくれと言われた父足名椎の反応は?

答へて(まを)ししく、
(かしこ)し。また、御名(みな)(さと)らず
とまをしき。

足「恐れ多いお申し出ですが、私はまだあなたの名前も知りません

足名椎はとても丁寧に返していますが、要は「名前も知らない男に娘はやれん」と言っているわけです。
まあ当然の反応ですよね。
それに対してスサノヲは?

爾くして、答へて詔ひしく、
「吾は、天照大御神のいろせぞ。(かれ)、今(あめ)より(くだ)()しぬ」
とのりたまひき。爾くして、足名椎・手名椎の神の白ししく、
(しか)(いま)さば、恐し。()(まつ)らむ
とまをしき。

須「私は天照大御神の弟だ。今高天原から降ってきたところなのだ」
足・手「それならば何と恐れ多いことでしょう!(娘のクシナダを)差し上げます」


スサノヲの身分がはっきりしたことで両親は納得して娘を嫁に差し出しました。
クシナダの気持ちが語られていませんが、基本的にこの時代は両親の許可=結婚の許可ですので、ご了承くださいませ。
でも、古事記神話の中にはこれとは対照的に、自ら夫を選んでいる女性もいます。
それは因幡の素兎神話に出てくる「()(かみ)比売」です。
彼女はオホナムチと他のたくさんの彼の兄たちがいる前で、毅然と言い放ちます。
(あれ)は、(いまし)()(こと)()かじ。大穴牟遅神(おほあなむちのかみ)()はむ
痺れるほど格好いいですね!
ここから彼女はただのお姫様ではなく、因幡の民を率いる立場にある人だったのではないかという推測をしている人もいました。
なかなか面白い解釈です。

また余計な話をしてしまいました。
続きをみてみましょう。

(しか)くして、(はや)須佐之男命(すさのをのみこと)(すなは)ち、
()爪櫛(つまぐし)にその童女(をとめ)を取り()して、()(みづら)に刺して、
その足名椎(あしなづち)手名椎(てなづち)の神に()らししく、
汝等(なむちら)
()(しほ)(をり)の酒を()み、
また(かき)を作り(めぐ)らし、
その垣に()つの(かど)を作り、
門ごとに()つのさずきを()ひ、
そのさずきごとに酒船(さかぶね)を置きて、
船ごとにその八塩折の酒を盛りて、
待て」
とのらしき。

さあ、ここからがスサノヲの知恵の見せ所です。
スサノヲが作戦で準備したことにの番号を振ってみました。
順に書き出してみます。
①クシナダを櫛に変えて、みずらに刺す(斎爪櫛とは爪の形をした神聖な櫛という意味です)
()(しほ)(をり)の酒(何度も醸造した強い酒)を作る
③垣根を作って取り囲む
④垣根に八つの入り口を作る
⑤入り口ごとにさずき(酒を入れる容器を置くための棚)を置く
⑥さずきごとに酒船(酒を入れる容器)を置く
⑦⑥の容器に②で作った強い酒を入れる
⑧あとは待つだけ

は繋がっていて、ひとつのものです。
ヲロチを柵の中に誘い込み、強い酒で酔っ払わせてしまおうという狙いです。
では、は一体どういう意味があるのでしょうか?
実はこれが「スサノヲなりの深いわけ」に関係があるのです。
古事記神話には、いくつかの独特なルールがあります。
そのうちの一つがこの間書いた「泣くと神が現れる」というものです。
そしてこれがもうひとつのルール「大きな物事をなすためには、女と男の両方の力が必要」というものなのです。
「女」と「男」どちらの存在が欠けてもうまくいきません。
古事記神話の始めの方の物語を思い出してみてください。
イザナキとイザナミは二人で国造りをしていました。
しかしイザナミの死がきっかけで、それは頓挫してしまいます。
イザナキが黄泉の国でイザナミに「吾と汝と作れる国、未だ作り終らず。故、還るべし」と言っていることから、イザナキ一人では国造りは出来ないのだということが読み取れますね。
またこの後のオホナムチが主人公となる神話でもスサノヲの試練に相対する前に、スセリビメと結婚しています。
彼女もオホナムチがスサノヲの試練を乗り越えるために重要な役割を果たします。
学者の方々はこのルールに「ヒメヒコ制」という名前をつけています。
スサノヲがクシナダを櫛に変えて身につけたのは、クシナダの「ヒメ(女)」としての力を得るためなのです。
もしクシナダの力が必要なければどこか安全な場所に避難させてもいいはずです。
それをあえて自分のそばにおいているのは、それが必要なことだったからなんです。
クシナダとの結婚も、ヤマタノヲロチを退治するための作戦のひとつだったわけですね。
ちなみに当時の人々にとって「櫛」は毎日髪をくしけずる物なので、「箸」と同じく感染呪術の力を持つ特別な道具でした。
また、「クシ」という音は「奇」の音にも通じます。
これも「ハシ」と同じく、文字文化以前の「同じ音を持つコトバは意味を超えて響きあう」という思想があるので、まさにこれから大きな困難に立ち向かうためには打ってつけのものだったのです。

さあ!これで準備万端整いましたよ。
いざ、ヤマタノヲロチ退治!

(かれ)、(略)かく(まう)け備へて待つ時に、その()(また)のをろち、(まこと)(こと)の如く来て、(すなは)ち船ごとに(おの)(かしら)を垂れ入れ、その酒を飲みき。ここに、飲み酔ひ留まり伏して()ねき。
(しか)くして、速須佐之男命、その御佩(みは)かしせる()(つか)の剣を抜き、その(へみ)を切り散らししかば、肥の河、血に変はりて流れき。

ついにヤマタノヲロチをやっつけました!
太文字のところにご注目。
いままでずっと「ヲロチ(原文では遠呂知(をろち))」と書かれていたものが、ここで初めて「(へみ)」と出てきました。
幽霊の正体見たり枯れ尾花、ということで、正体不明の化け物ヤマタノヲロチの正体はなんと「蛇」だったのだ!・・・という流れなのです。
これは古事記が狙って書いた工夫です。
始めからヲロチに大蛇という字を当てては、その恐ろしさが半減してしまいます。
あくまでも、退治されるまでは正体不明の不気味な化け物でなくてはならないのです。
そういった意味では、日本書紀は始めから「大蛇」としているので、古事記と比べると読者を惹きつけるよりも内容を正確に記すことに重きを置いた書物といえるかもしれません。
また、空色勾玉をはじめ、現代で「オ(ヲ)ロチ」が出てくる物語では大半が「大蛇」と書いてますが、これは読者のイメージをより具体的に導くための工夫とも取れますし、それに古代においては蛇は長寿の象徴という性格もあったようですが、現代では大抵の人は「蛇=恐い」と感じていますから、古事記時代と違って現代の読者の恐怖心を喚起させるには適した表現といえるかもしれません。
ちなみに私も蛇は大の苦手です。

さて、それではヤマタノヲロチ退治の最後の仕上げです。

故、その中の()を切りし時に、()(はかし)()(こほ)れき。爾くして、(あや)しと思ひ、御刀の(さき)(もち)()()きて見れば、つむ()大刀在(たちあ)り。故、この大刀を取り、()しき物と思ひて、天照大御神に(まを)し上げき。これは草なぎの大刀(たち)ぞ。

草なぎの大刀(たち)
これも漫画や小説ではよくモチーフとして使われていますね!
草なぎの大刀はスサノヲによってアマテラスにもたらされ、次に天孫降臨の際にアマテラスから孫のニニギに授けられ、そして中巻では倭比売からヤマトタケル命に手渡されることになるのですが、これはまた別の機会にでも語りたいと思います。
ちなみに「つむ羽の大刀」は「つむがりの大刀」と書かれることもありますが、結局何かはよく分かりません。
「つむがり」は物を断ち切る様で、この「つむがり」が「ヅカリ」になり「スッカリ」に変化していったと古事記伝(本居宣長)はいっています。
とりあえずここではこの説をご紹介するにとどめさせていただきます。


今回は大変長くなってしまいました。
ここまで読んでくださった方がいらっしゃったら本当にお疲れ様でした。
しかし、実はこれだけ書いてもまだ書けていないことがあるのです。
続きに行く前にまたちょっとだけこの記事の補足を書かせていただきます。
書くことは
・スサノヲの名乗りの不自然な点
・クシナダ姫の別名とそこから運命付けられていたこと
・草なぎの大刀の名前の由来
の三つです。

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