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【補足】荻原作品と万葉集~「RDG」梓弓…

続きの前にお返事です!

りえさん

>兼倉さん、こんばんは。
>回復なさったようで、本当によかったです。
>ご無理なさらず、続きも心待ちにしています。


ご心配して下さってありがとうございます!
回復と同時にノリノリで更新しております!
ライフワークといえるくらい長く気ままに続けられたらいいなと思っておりますので、気楽にお付き合いいただけたら嬉しいです!
りんこさん
>風邪は全快しましたか?
>こちらでは暖かくなって桜も一気にほころんできました
>よき春になりますように


完全に山は越えたのでもう大丈夫です!
こちらでも先日桜の開花宣言があったばかりです。
予報では数日以内に満開になるとか…。
次の日曜日に友達と花見の予定なのでちょっと残念ですが、早く暖かくなってくれるのはとてもありがたいです。

>梓弓の歌は、はっきりしろこのヘタレが!という歌ですよねヾ(・ε・。)ぉぃぉぃ
>「ちょっと変」の真実を楽しみにしています


真実かどうかは荻原先生のみぞ知る…というところですが、それでも精一杯探ってみたいと思っております。
荻原先生に解答をもらえる日は来ないでしょうが、ここをご覧くださる一部のオギワラーの方々に何か感じてもらえるものが書けたらいいなという気持ちです。


それでは続きです!

梓弓 ()きみ(ゆる)へみ ()ずは()ず ()()()()ぞ ()ずは()()

梓弓を引いてみたり緩めてみたりするようにやたら気をもませて……。来ないなら来ない、来るなら来るではっきりさせて下さい、それを何ですかまあ。来るとか来ないとかやきもきさせて、何ですかまあ。(訳:伊藤博)

この歌、パッと見た感じどう思いましたか。
人それぞれとは思いますが、たぶんその中の幾人かの方は「来」をたくさん繰り返しているなあ・・・と思われたのではないでしょうか。
この時代はまだ文字があまり普及していません。
人々は漢字の意味よりも「音」が重要なのです。
この歌は、実は「音」を使って遊んでいる歌です。
「こ」「こ」「こ」「こ」と、何度も同じ音を使ってリズミカルに歌っているんです。
煮え切らない相手を責めている内容にしては、言葉が妙に弾んでいる気がするところが「ちょっと変」かもしれません。
こういうリズミカルな歌は、相手に気持ちを伝える歌というよりは、みんなで歌って盛り上がるための歌、つまり「宴の席での戯れ歌」という指摘をされることが非常に多いです。
万葉集をよくご存知の方は坂上郎女の歌に似たように「来」を繰り返して似たような内容のものがあるのをご存知でしょう。
あの歌はおそらくこの歌を知っていた上で作られたと思いますが、やはり本気ではなく「戯れ歌」と解するのが適しているという評価が多いです。

また、この歌も前の「天地の~」の歌と同様「寄物陳思」という分類の中に登場する歌です。
全部で三首の歌群になっていて、「弓」に寄せた歌の中の最後の歌になっています。
せっかくなので、三首続けて見てみましょう。

1.梓弓(あづさゆみ) (すゑ)のはら野に ()(がり)する 君が()(づる)の 絶えむと思へや

2.葛城(かづらき)の 襲津(そつ)(ひこ)()(ゆみ) (あら)()にも 頼めや君が 我が名告(なの)りけむ

3.梓弓 ()きみ(ゆる)へみ ()ずは()ず ()()()()ぞ ()ずは()()

1.末の原野で鷹猟(たかがり)をする我が君の弓の弦が切れることなどないように、二人の仲が切れようなどとはとても思えない。
2.葛城の襲津彦の持ち弓、その材の新木さながらにこの私を信じきって下さった上で、あなたは私の名を他人に明かされたのでしょうか。
3.梓弓を引いてみたり緩めてみたりするようにやたら気をもませて……。来ないなら来ない、来るなら来るではっきりさせて下さい、それを何ですかまあ。来るとか来ないとかやきもきさせて、何ですかまあ。


二首目は、当時男性が恋人の女性の名を他の人に明かしてはならないという禁忌をどうして犯したのかという内容です。
すべて女性の立場から男性に歌いかけている歌ですね。
この歌群を調べていて、おもしろい指摘を見つけたのでご紹介します。

以上三首は、狩猟の場において詠まれた歌である可能性もある。
その立場から見れば、歌の作り手はすべて男であったかもしれない。
一首目・二首目における比喩表現の特殊性は、本日の狩猟のさまを争って語り合った男たちの口吻を投影しているがごとくにも見える。
三首目の上二句も、狩猟前の弓の用意に従う男たちのさまを思う時、妙に落ち着くように考えられるが、いかがなものだろう。
戯れ歌が宴の場に深く結びつくことはいうまでもない。


伊藤博さんの指摘です。
いわれてみれば、普段弓を扱うことのない女性が詠んだにしては、弓の比喩表現がリアルすぎて「ちょっと変」かも・・・?
さて、真実はどうなのか。

いかがでしたでしょうか。
荻原先生が作品に引用された万葉歌に、少しでも新しい興味や魅力を感じていただけたら幸いです。
予定していた万葉歌の紹介は以上ですが、最後におまけとして「〈勾玉〉の世界」の中の「潮もかなひぬ」のという題名のもとになっていると思われる額田王の歌をご紹介して終わりにしようと思います。
あと少しだけお付き合いください!