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萬葉のいのちの感想

そういえば読み終わった感想を書いていなかったことを思い出したので書いてみます。
とはいえ非常に濃厚な伊藤先生直伝万葉エキスが随所に散りばめられていてとても俄か万葉ファンの私には全体を簡潔にまとめた内容は書けそうも無いので、読み終わった段階での感情を記して、感想に変えさせていただきたいと思います。

まず、古典を読み進める態度は、次の三つの種類に分けられるそうです。

(イ)学者的態度(=古典を巨人として見る)
(ロ)評論家的態度(=古典を矮人として見る)
(ハ)連衆者的態度(=古典を隣人として見る)

それぞれ

(イ)多くの実例を集積し参照することで、作品の世界を客観視しようとする姿勢
(ロ)現代的な問題意識や外的な研究方法によって、対象を自由に切り取っていく姿勢
(ハ)作品が作られ享受された世界に仲間入りすることで、古い作り手や受け手たちと悲喜や哀楽を共にしようとする姿勢

伊藤先生は長年この中の(ロ)古典を隣人として見る姿勢を目指してきたとお書きになられてました。
確かに伊藤先生の文章は感情を隠さない情熱的な筆致で展開されており、読者としては単純に驚きました。
それまでの私の学者像はまさに(イ)の姿勢の人々で、それこそ豊富な知識と長年の経験に裏打ちされた緻密で造詣の深い論理的な思考で、素人の私たちからすれば雲の上のような高みで構築された業績を持っていて、その一端を講演や図書で私たちに還元されているのだと思っていました。(大げさかもしれませんが)
しかし伊藤先生の文章は読めば読むほど目の前のおじいちゃんが熱弁をふるって力説している様がまざまざと浮かんでくるような調子で、たまにちょっと「え、それはちょっと飛躍してるんじゃ・・・」とか「お、おじいちゃん、落ち着いて・・・」とか言いたくなる場面もちらほら(偉大な学者先生に対してなんて失礼な!)。
まさに「隣人的姿勢」です。
伊藤先生は万葉人の隣人となることで、それを伝える相手ともまさに隣人となるお方なのだと思いました。
ずっと敷居が高く感じていた古典が一気に身近なものになったのは伊藤先生のお陰です!
原文こそ専門的知識がなければ読めませんが、そこに記されているのはまさに当時の人々の魂の声であり、それは今も私たちに受け継がれる(もしくはどこかに埋没している)想いだったのだと思いました。
私が歴史を好きなのは、長い時で隔たっているはずの当時の人々の生活や思いが、不思議とそれを越えて今にぴたりと重なる瞬間があるからです。
その瞬間がたまらなく嬉しくて楽しいのです。
しかしまさか長いこと算数や数学一辺倒だった私がこんなに古典にハマることになろうとは思ってもみませんでした。
人間生きていると何が起こるか分かりませんね。
これからも精力的に自分が興味を持った物事へ突き進んでいきたいと思います!

っていうかもうホント、聞いてください・・・。
あれから私止まらなくなって古本で「万葉集 上・下(角川ソフィア文庫)※書き下し文と注のみ記載。歌だけ調べるのに便利※」「萬葉のあゆみ」「萬葉集相聞の世界」を買ってしまったんですよ!
さらに「萬葉のいのち」「愚者の賦」も購入ボタン押しちゃったんですよ!
※上記は全部伊藤先生の著書です※
どうしよう!どうしよう!もう私ダメだ!ホントダメだ!ダメの極みだ!
誰か止めてください・・・。
お願いします・・・。

因みに今読んでる本は前にここにも書いた森浩一先生の「萬葉集に歴史を読む」です。
ホントはこのまま伊藤先生ワールドへ突っ走るのも良かったんですが、思考が偏るのが怖かったのと、自分が元々考古学方向から歴史に入ったのでそこに一旦帰ってもう一度立場を見直すということで。
いやー、さすが森先生。
チョー面白い!!(教養の欠片も無い感想)
っていうか、伊藤先生も森先生も超一流の学者先生だと思ってるんですが、専門が違うだけで同じ素材でこうも違う立場になろうとは!!物凄い驚きです!
まず、歌の引用が全部現代仮名遣いになっているのに驚きました!!
どうりで読みやすいと思いましたよ!
「は」⇒「わ」、「ふ」⇒「う」、「を」⇒「お」、「ひ」⇒「い」などなど。
これだけでホントびっくりするくらいスムーズに読めるようになりますね。
自分が今までどれほど頭の中で現代仮名遣いに直して読んでいたか思い知りました。
そのプロセスが無いだけでこんなにも読みやすくなるなんて・・・。
この表記は万葉集の「一語一語を考究する努力に徹する」という恩師澤瀉(おもだか)久孝先生を「生涯かけて追い求めた理想の人間像」となさった伊藤先生なら絶対ありえないですね。
森先生は冒頭に「ぼくは文学者ではないし、文学史の研究者でもない。」と述べておられます。
和歌を現代仮名遣いで記された理由はあとがきに「旧仮名遣いになじまない若者(←まさに私ですね!)が読んでくれることを意識したからである。」と書かれてました。
森先生・・・!
森先生の著書「古代史おさらい帖」ではこれから古代学を担う若い世代への真摯な期待が前面ににじみ出ている内容でした。
森先生は相手に「伝える」ということと本当に真剣に向かい合っていらっしゃる方だと思います。
「古代史おさらい帖」は他の先生の図書と違って、振り仮名や地図や図表が必要最低限しかついてなくて、正直読むのにはかなり苦労しました。(実はこれが古代史関係で初めて買った本でした)
しかしお陰で地図帳を調べたり、専門書籍やサイトを調べたりすることにある程度慣れることが出来ました。(まだまだですが)
読んでるときは本当に苦労してましたが、今にして思えばそれこそが森先生のねらいであったのかなと勝手に想像しています。

・・・話がだんだんずれてきました。
このあたりで区切りをつけたいと思います。
全く古代史ってホント楽しいよね!っていうのが結論です。(今更)