Entry

イザナキとイザナミの国産み神話:後編

前回の続きです。

やっと12番目に出てきたイザナキとイザナミがいよいよ天降る場面です。

ここに、あまつ神もろもろみこともちて、伊邪那岐命・伊邪那美命の二柱の神にのりたまはく、「のただよへる国修理つくろひ固め成せ」とのりたまひ、あめ沼矛ぬほこを賜ひて、言依ことよし賜ひき。

天つ神の皆さん
 「このどろどろと漂っている状態をちゃんと固めて国を作りなさい」


天つ神さまたちはかなりの無茶振りをなさいます。
やり方の説明もなく、ただ、やれ、とだけ言ってきます。
因みに、古事記における「天つ神」とは高天原にいる神様の総称で、それに対して「くにつ神」は地上、すなわち葦原中国あしはらのなかつくににいる神様の総称です。
後に生まれる「天照大御神あまてらすおおみかみ」はこの「天つ神」の最高神であり、それに対して「大国主」は「国つ神」の最高神とされています。
で。
いきなりイザナキとイザナミは国づくりを任されることになってしまったわけですが、うまくできるのでしょうか?
続きを見てみましょう。
いきなり国づくりを任された二神は同時に渡された矛(槍みたいなものです)で混沌としてまだ何もない下界をかき回してみます。

かれ、二柱の神、天の浮橋うきはしに立たして、其の沼矛ぬほこを指し下ろしてきしかば、塩こをろこをろに画きして、引き上げし時に、其の矛の末よりしただり落ちし塩は、かさなり積りて島と成りき。是、淤能碁呂島おのころじまぞ。

なんか勝手に島が出来ちゃった!
名前もまんま、「己で凝り(固まった)島」です。
このオノコロ島について森先生の面白そうな説があったので以下でご紹介します。

 男女二神のオノコロ島づくりでは、『記』のほうでは、たとえば奈良盆地の人では持ちあわせない製塩の情景についての知識が、"コオロコオロ"と塩の結晶を道具でかき混ぜる音まで入れて、取り入れられている。(中略)
 宮城県塩竃しおがま市に陸奥一の宮の塩竃神社がある。この神社の境外末社に御釜おかま神社があり、(中略)藻塩焼もしおやき神事がおこなわれている。(中略)鉄釜の下に火打石で火をつけたのが午後一時半、最初は表面に浮くアブクをとるのに忙しいが、約一時間たつと急に釜底に塩の塊が姿をあらわしだし、『記・紀』のオノコロ島づくりの描写を思い浮かべた。(中略)
 このように製塩の情景を思い浮かべると、男女二神は製塩技術にもたけていたか、あるいはそのような仕事を日ごろ見なれている海人系として扱われているのである。
※「日本神話の考古学」(著:森浩一)より引用

へー!
日本民族はたくさんの民族(中華系・朝鮮系・南方系・北方系など)から成っていて、海の民や山の民の思想が入り混じっているといわれることがありますが、こんなふうに受け継がれていると考えるとロマンが掻き立てられますね!

さて、都合よく勝手に固まってくれた島に二神は降り立ちます。
そしてもうすぐ皆様お待ちかねのあの台詞が出てきますよ!(え?待ってるの私だけですか?)
まずは軽いジャブ。

其の島に天降りして、あめ御柱みはしらを見立て、八尋殿やひろどのを見立てき。是に、其のいも伊邪那美命を問ひてひしく、「汝が身は、如何いかにか成れる

イザナキ
 「ねぇイザナミ、きみの身体ってどうなってるの?」(直球)


オノコロ島に降り立って早々いきなりセクハラかますイザナキです。
いきなり何言いだすの!?って思いますね!
イザナミさんちょっと懲らしめてやってくださいよ!

答へてまをししく、「が身は、り成りて成り合わぬところ一処ひとところ

イザナミ
 「私の身体は大体出来上がっているけど、物足りないところが一か所あるわ


ちょっ!!!
イザナミは怒るどころか、かなりきわどいことを言い出しました!
これに気をよくしたのかイザナキが更に調子に乗って遂にあの台詞を言います!

伊邪那岐命ののりたまひしく、「我が身は、成り成りて成り余れる処一処在り。かれ吾が身の成り余れる処をもちて、汝が身の成り合わぬ処を刺し塞ぎて、国土くにを生み成さむと以為おも

イザナキ
 「俺の身体も大体出来上がっているけれど、余ってるところが一か所あるんだよね
 「でさ、俺の余ってるところで君の物足りないところを塞いだら、もしかして国ができるんじゃない?


塞ぎたいのはお前の口だよ、と言ってやりたいところですね。
イザナミが怒らなかったのに気を良くして、更なるふたりの進展を図っているようですが、いかんせん、その口説き文句がセクハラすぎる。
イザナミさん、今度こそ怒ってやって下さい!

伊邪那美命答へてひく、「しか

イザナミ
 「あら良いわね


物凄いあっさり承諾したー!

というわけで、二神はこのあとちょっとした失敗を交えつつ、無事日本の国土や様々な神様を産んでいきます。
順調に思えた国造りですが、日本の国土が産み終わり、神様を産んでいる途中で、イザナミを悲劇が襲います。
火の神「カグツチ」を産んだところで、イザナミはホト(女陰)に火傷を負って死んでしまうのです。
イザナミが死んだことにより国造りは中断してしまいます。
この中断した国造りは、その後の大国主によって引き継がれることとなります。


というわけで、以上が大まかな「イザナキとイザナミの国産み神話」でした!
かなり端折ったところもありますが、これはこれでなかなか面白い話題なので、今後も機会があったらもう少し突っ込んだ内容を語りたいと思います。
また、イザナミの死とイザナキの黄泉の国訪問の話もかなり気になる話ですね!
日本神道の最高神「アマテラス」、夜の闇のように謎の存在「ツクヨミ」、出雲国を救った英雄「スサノヲ」の三姉弟(=三貴子)の関係についても気になります!
そしてこの後高天原を追放されたスサノヲの、ヤマタノオロチ神話から始まる長大な出雲神話!!!気になりすぎる!!!
あ、Hさまにご指摘いただきました通り、私は出雲の近くに住んでいます。
…とはいえ、今住んでる処から片道4時間の距離ですが(^_^;)
位置的には鳥取県の東の方です。
実は実家(鳥取県の西の方)からだと2時間くらいの距離で、言葉も出雲に近いです。(鳥取県は東西で文化や言葉が違います)
この間の万葉集サークル(←隣町)で「一時期毎週出雲に通ってたんですよー」と言ったら、みなさんドン引きでした。
そんな距離です。
今後も周りからの生暖かくも若干イタイ視線を感じつつ、趣味に邁進していく所存です。