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つばらつばらに

この間の水曜日にまた万葉サークルに参加してきたのですが、その時からずっと耳に残っているフレーズがありまして。
それが題名にしている「つばらつばらに」です。
単独で「つばらに」とも使います。
初めて聞いた時、単純にとても耳触りのいい音だなぁと思いました。
意味は「しっかりと、じっくりと、つぶさに、折に触れて何度も、丁寧に、つらつらと」などです。
大伴旅人(家持の父)の歌で

浅茅原(あさつばら) つばらつばらに もの思へば 古(ふ)りにし里し 思ほゆるかも

というものがあります。
意味は、「浅茅原のつばらではないが、つばらつばらに(=つらつらと、折に触れて何度も)物思いに耽っていると、今は古びてしまった明日香の里で過ごした若き日のことが懐かしく思われるよ」となります。(兼倉の意訳ですので結構適当ですよ!)
あ、余談ですが関西(京都かな?)のお土産物に「つばらつばら」というどら焼き状のお菓子があって、サークルで頂きましたがとてもおいしかったです!
また、額田王の長歌で

味酒(うまさけ) 三輪の山 あをによし 奈良の山の 山の際(ま)に い隠(かく)るまで 道の隈(くま) い積(つも)るまでに つばらにも 見つつ行かむを しばしばも 見放( みさ)けむ山を 情(こころ)なく 雲の 隠さふべしや

ずっと慣れ親しんできた明日香やその近くの奈良、その景色をつばらに(=しっかりと、つぶさに)見ていたいのに、心無い雲が隠してしまってもいいのかしら?そんなはずないわ、みたいな意味です。(省略してますが、ちゃんと訳すと枕詞とか反語とか色々凝らしてあって、物凄く技巧的で素晴らしい歌です)

古代史や古代文学に触れていると、確かに現在に通じる精神を感じて萌え萌えすることが多いのですが、実は同じくらい今は無くなってしまった古代特有の言葉とか感性にもかなり萌え滾ったりするわけです。
できれば創作の方にもこういう古代独特のものを取り入れてみたいと思っているのですが、なかなかネタにまで昇華できなくて胸の裡でくすぶっている感じです。
こういうのがうまくいかせる人の文章とか絵とかに出会うと凄く感動します。
伊藤博先生曰く「連衆者的態度(=古典を隣人として見る)」という姿勢が私の理想ではあるのですが、なかなかうまくいきません。
この他にも以前書いた「ま幸(さき)く」もかなり心をつかまれる言葉です。
いつか活かせる日が来るのか・・・。