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スサノヲとアマテラス・続きの続きの続き

2.すれ違いの続き

<前回のあらすじ>
スサノヲは任されたはずの海原を治めず、毎日毎日泣きわめいて葦原中国に甚大な被害をもたらしました。
泣いていた理由は「妣(母)イザナミに会いたいから」
しかしその理由は父イザナキの怒りを買い、かむやらひ(追放)」されてしまいます。
スサノヲは追放される前に、姉アマテラスに最後の挨拶に赴きます。

↓↓続きの本文↓↓

かれここに、速須佐之男命はやすさのをのみことはく、「しからば、天照大御神にまをしてまからむ」といひて、すなはあめのぼる時に、山川やまかはことごととよみ、国土皆震くにつちみなふるひき。

凄いです。
とよみ」とは鳴り響く、つまり地鳴りさせながらやってきたわけです。
スサノヲは高天原へ昇天するだけで大地震を起こします。
相当体が大きいのか、はたまた力が並外れているのか、・・・両方かもしれません。
さあ、この大異変に姉のアマテラスはどうするのかというと。

しかしくて、天照大御神、聞き驚きてのりたまはく、「我がなせのみことの上り来るゆゑは、必ず善き心ならじ。我が国を奪はむとおもへらくのみ

アマテラス
「あの子がここにやってくるなんて絶対なにか企んでいるに違いないわ!そうよ、きっと私の国を奪いにきたのよ!

いきなり物凄い誤解を受けていますスサノヲ。
アマテラスはこう宣言した後
・髪を解いて鬟(みずら=男の髪型)に結いなおし、
・左右の鬟と髪飾りと左右の手に、それぞれ大きな勾玉を長く連ねた玉飾り(←オギワラーならこれを何と云うか分かりますね。そう、御統[みすまる]です!)を巻きつけ、
・背中には千本入りの矢筒を負い
・腹にも五百本入りの矢筒を着け
・立派な防具を腕につけ
・矢を射る格好をしてみせて
・堅い庭にももがメリ込むほど踏み込んで、地面を泡雪のように蹴散らして、雄々しい振る舞いで迎えた。
実に物々しい。
姉はもう、本気です。
本気で弟に対して怒り狂っています。
男装した上に完璧な武装までして、実に勇ましい姿で弟のスサノヲを迎え討つのです。
スサノヲがはじめに泣き喚いて、アマテラスが治める高天原の繋がりである葦原中国を散々に荒らしたことが遠因になっているのではと個人的には思っていますが・・・どうでしょうか。
それに対して、スサノヲにはアマテラスに敵愾心は一切ありません。
ただお別れの挨拶をしようと思ってやってきただけです。
このあたりから姉と弟の「すれ違い」が段々浮き彫りになってきます。
ただ、重要なのはこれは「すれ違い」であって、「対立」ではないということです。
スサノヲは決して姉を攻めにきたわけではないし、また姉アマテラスも自分から積極的にスサノヲを討とうとした訳ではないのです。
誤解から生じた「すれ違い」が、結果的に対立する状況となってしまったのです。
それゆえ、この二柱の神の関係の本質は「対立」ではありません。
あくまでも「すれ違い」なのです。
これはこの後を読んでいく上でも重要な視点になりますので心に留めておいてやってください。
昔からスサノヲとアマテラスは「対立する神」として捉えられることが多かったわけですが、実はそれは本質ではなく、単なる結果でしかないのです。
続きを見てみます。

(アマテラスは)待ち問ひしく、「何のゆゑにか上り来たる」ととひき。しかしくて、速須佐之男命はやすさのをのみことの答へてまをししく、「やつかれは、しき心無し。ただし、大御神のみこともちて、(略)かむやらひやらひ賜ふがゆゑに、まかかむかたちまをさむと以為おもひて、参ゐ上れらくのみ。しき心無し」とまをしき。

アマテラス
「何しにきたのよ(怒)」<既に臨戦体勢
スサノヲ
「えっ!?待って下さい姉さん!誤解です!さよならを言いに来ただけです!信じて!」

スサノヲは待ち構えていたアマテラスにいきなり尋問を受けてしまいます。
こんな「かかってこいや」状態の人に何しにきたかと問われても困りますね。
むしろそっちが何してるのと問いたい。
スサノヲはこんな状態の姉の誤解を解こうと必死に言い募ります。
自分は父親から追放されたこと。
それゆえ姉には別れの挨拶に来たこと。
「邪しき心無し」「異しき心無し」と始めと最後に繰り返しています。
しかし姉はそれでもまだ信じられません。
はい!ここできましたよ!
有名な「あめ真名井まなゐ誓約うけひ」です!

しかしくて、天照大御神ののりたまひしく、「しからば、汝が心の清くあかきは、いかにしてか知らむ」とのりたまひき。ここに、速須佐之男命の答へてまをししく、

おのおの
うけひて、子を生まむ」

とまをしき。

キター!キター!
・・・一人で盛り上がっててスミマセン。
実はこの誓約うけひというのも「す」と同様私の好きな古代語の一つです!
というわけで、これを読んだあなた様は明日から小説なんかで「誓約」と出たら是非「うけい」と読んでみましょう。
ぐっと古代テンションが滾りますよ!(どうでもいい)
因みにパソコンで「うけい」と打つと「誓約」と変換してくれます。(登録してるわけじゃないですよ!)
この「ウケヒ」とは何かというと、古代の占いの一種です。
始めに「Aに成ったら甲、Bに成ったら乙」と定めて行うものです。
例えばコイントスで「表が出たら勝ち、裏が出たら負け」とするのも一種のそれです。
古代では実際に占いによって神の意志を確かめる行為が行われていました。
ただこれはいつも公明正大なものとは限らず、例えば中世ヨーロッパの魔女狩りのように、一方的な拷問に近いものもこれに含まれます。
神の意志を問うという性格上、より人知を超えた結果を求める方向に向かってしまうというのも分からなくもありません。
で。
スサノヲとアマテラスの「ウケヒ」はどうかというと、どうやら「子どもを生む」ことによって占うようです。
次に行く前にちょっとだけ説明を挟みます。
本来「ウケヒ」では、行う前に「男が生まれたら勝ち、女が生まれたら負け」とかあるいは「女が生まれたら正しい、男が生まれたら間違い」などの宣言(前提)を行います。
そうでないと、結果が出た後でもめてしまいますからね。
しかし、ここではそれが行われないまま話が進みます。
これにも実は色々な説があるのですが、先に続きを見てしまいましょう。
子どもを生むって一体どうするのでしょうか!?
ま、まさかセクハラ再びか!?
・・・いいえ、違います(笑)

かれしかしくて、おのおのあめやすの河を中に置きてうけふ時に、

天照大御神、
建速須佐之男命たけはやすさのをのみことける十拳とつかつるぎひ渡して、きだに打ち折りて、
ぬなとももゆらにあめ真名井まなゐすすぎて、
みにみて、
吹きつる気吹いふき狭霧さぎりに成れる神の御名みなは、
多紀理毘売命たきりびめのみこと(略)(計三柱の女神が化成する)。

速須佐之男命、
天照大御神の左のみづらける八尺やさか勾玉まがたま五百津いほつのみすまるの珠を乞ひ渡して、
ぬなとももゆらに天の真名井に振り滌ぎて、
さ噛みに噛みて、
吹き棄つる気吹の狭霧に成れる神の御名は、
正勝吾勝勝速日天忍穂耳命まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと(略)(計五柱の男神が化成する)。

ウケヒが始まりました!
書いてる時点で私が凄くワクワクしております。(落ち着け兼倉)
物凄く幻想的な光景が繰り広げられてますね。
始めにアマテラスがスサノヲの剣を三つに折って天の真名井の水ですすいで、それを噛み砕き、ふっと吹いて出すと、そこから三柱の女神が生まれます。
因みにスサノヲの剣「十拳の剣」は「十拳=長い」という意味で剣の名前ではありません。
「長い剣」くらいの意味です。
また天の真名井は井戸です。
鳥取県米子市淀江に実際にあります。
とても綺麗な湧き水で、汲んで帰ることも出来ますよ。
お近くにいらっしゃった際は是非!
で、本文に戻りますが、始めのアマテラスの剣を折ったり噛み砕いたりの部分はかなり豪快ですが、その後の息と一緒に吹きだして神が生まれるあたりはとても綺麗ですね。
スサノヲもアマテラスの勾玉を噛み砕いて息と一緒に吹きだして神を生みます。
二神の神生みはとてもよく似た表現で書かれています。
それを表現したくて、本文の引用にちょっとくどいくらい改行を入れました。
ここの表現は実にリズミカルです。
幻想的な表現とリズミカルな言い回しがあいまって、どこか演劇的な印象を受けます。
「さ噛みに噛みて」や「気吹の狭霧」は是非声に出してお読みいただきたいです。
「サ」の音がどれほど効果的かお分かりいただけると思います。
これが「噛みに噛みて」や「気吹の霧」と言ったときとの違いを比べていただくと、より分かりやすいと思います。
↓↓因みにこれは「おのでらえいこ」さんの「ウケヒ」の挿絵です↓↓
ファイル 455-3.jpg
絵で見ると本当に幻想的な情景ですね~。
まぁ実は携帯画像なのでかなり色がおかしいですが(汗)
原画は「からくり読み解き古事記」(著:山田永、小学館)にてご覧いただけます。
お時間がありましたら是非お近くの書店にて一度元の美麗絵を見てみてください!

さて、「ウケヒ」の結果が出ておりませんが、ここで一区切りとさせていただきます。
次回は3.和解と決別です。
恐らく古事記神話の中でも「ヤマタノオロチ神話」「因幡の白兎神話」と並ぶ超有名な神話「天の岩屋戸神話」となります。
スサノヲとアマテラスの運命は・・・!

復刊ドットコム

トップページに復刊ドットコムのリンクを張ってしまいました。
西郷信綱さん著「古事記注釈」の5巻と8巻です。
宜しければ清き1票を何卒・・・!
5巻も8巻も中巻以降なので、神話時代の内容ではありませんが、非常に興味深い内容を取り扱っています。
5巻ではヤマトタケルが一番有名でしょうか。
8巻は雄略天皇や継体天皇のことが書かれています。
もともと1巻ずつ読み終わったら買い足していこうと思っていたのに、気付いたら5巻と8巻が絶版状態になってて半泣き状態になりました・・・。
全部一気に買うと高いからなぁ・・・と思ってゆっくり買おうとしてたらこのざまですよ・・・。
ホント泣きたい・・・ううぅ。
とはいえ、お願いするだけなのもアレなので、今後は中巻や下巻の内容もここで扱っていきたいと思います。
悪くないな・・・と思われたら是非1票を!
あ、すでにご存知の方はすぐにでも是非1票を!

さて、次は途中になっているスサノヲとアマテラスのことを書きたいと思います。
少々お待ちを・・・!(待ってないよって方はスミマセン・・・)

スサノヲとアマテラス・続きの続き

2.すれ違いの続き

…の、前に。
前回の補足をちょっとだけ。
スサノヲはイザナミのことを「妣(はは)」と言っていますが、ここで「あれ?スサノヲを生んだのはイザナキじゃなかったっけ?」とか「決別して黄泉の国から還ってきた後だから、イザナミは関係ないのでは?」と思った方もいらっしゃったことと思います。
まったくその通り。
今の私たちの感覚ではちょっとおかしいですね。
このことに関しても、研究者の方がいろいろな論を出しておられますが、その中でも私が「へー」と思った説をご紹介します。
そもそもイザナキが三貴子を得たきっかけは黄泉の国へイザナミに会いにいったためでした。
黄泉の国で得た汚れを清めるためにミソギをして、そのさなかにうづの子を得」たわけです。
そしてイザナキはこれ以降一切子を得ていません。
よって、やはりイザナキは一柱では子を得る力は無いのだろうと考えられます。
イザナミを黄泉の国へ迎えに行ってうつくしきがなにみことあれなむちと作れる国、未だ作りをはらず。かれかへるべし」と、国造りがイザナキ独りではできないことを予期させる言葉を言っています。
ここから、多少曲解という意見もありますが、やはり三貴子はイザナキとイザナミの力で得られた、つまりはイザナミの子でもあるということが出来るのです。

・・・この説明が誰の説だったのかド忘れしてしまいました。(スミマセン!スミマセン!)
確か山田永さんか武光誠さんか三浦佑之さんの説だったと思うのですが、手元の著書でそれらしき箇所を見つけられず、引用を諦めて記憶を頼りに書いてみました。
ここの箇所は「成る」と「生む」の表記の違いから説明されることもあり、それもそれで面白いとは思うのですが、今回は省略させていただきます。
とにかく、スサノヲのいうはははイザナミということがいいたいわけです。
なぜ、ここをあえて強調したかというと理由があります。
実は古来からこのははの国」が「イザナミのいる黄泉の国」のことなのか「母国」という意味なのか論争があるのです。
スサノヲはははの国の堅州国かたすくにへ行きたいと言いますが、イザナミの国は「黄泉の国」という記載はあっても「根の国」という記載はありません。
そのため、以前にも書きましたが「黄泉の国」と「根の国」が同一の国なのかそうでないのかで意味が違ってきてしまうのです。
あまり詳しく書くと先に進めないので(あくまでも私の好みだと思った論の)結論だけ書きますと、はははイザナミのことであり、「黄泉の国」の中かもしくはそれに続く場所に「根の国」があると思われます。
私の中では「黄泉の国」は殯(もがり)の場、「根の国」は殯が終わって完全に死んだものが行く続きの世界という気持ちです。
※ただしここの論は本当にいろいろあって、私が考えているのはその中の一つに過ぎません。


ギャー!全然続きがかけてないのにもう朝5時前ですよ!
ホント私駄目だ!
スミマセン、土曜も仕事なのでここで一旦区切ります。
次こそ高天原の大事件を!

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