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日向神話~天孫降臨~(番外編:溺れる猿田毘古)

随分時間が掛かりましたが、猿田毘古とウズメのお話です。

「溺れる猿田毘古、ナマコを切り裂くアメノウズメ」

<前回までのおさらい>
ニニギは父親のオシホミミに代わって天降ることになりました。バブー!
早速八衢(ヤチマタ:道がたくさん交わっているところ)に行ってみると、物凄く光り輝くド派手な神様がいました!
ウズメが問いただすと、彼は猿田毘古と名乗り、天つ御子が天降るというからその道案内にやってきたというではありませんか。
ニニギは祖母のアマテラスにいろいろありがたい頂き物(三種の神器)や部下を貰って、猿田毘古の導きに従って日向国の高千穂に天降りました。
ニニギはウズメに道案内してくれた猿田毘古の帰り送ってくることと、彼の名前を貰い受けて猿女の君と名乗ることを命じました。


さて、その猿田毘古さまなのですが、なぜかいきなり溺れている話が入っています!
猿田毘古が溺れるってどういうことだ!?命は助かったのか!?
ウズメさんがナマコを切り裂くって!?クメ「さすがウズメはナマコにも容赦しないな(恐)」

今回は折角なので読み下し文ではなく、本の宣伝もかねて現代語訳を載せてみます。
三浦佑之先生の「口語訳古事記」を引用させていただきます。
古老の語り口をかりて展開される三浦古事記の世界観をどうぞご堪能ください!

<溺れる猿田毘古>

そういえば、そのサルタビコじゃが、すこし間抜けなところのあるお方での、先払いにお仕えする前のこと、伊勢の国の阿耶訶(あざか)にいましたのじゃが、その時にの、(いさ)りをしておって、ヒラブという貝に手を挟まれてしもうたのよ。
それで溺れてしもうての、海の底にまで沈んでいった時の名をソコドクミタマと言い、海の水が逆巻いて泡立った時の名をツブタツミタマと言い、その泡が水面で弾け割れた時の名をアワサクミタマと言うのじゃ、と。


細かいことは置いておくとして、もうひとつのおススメをご紹介!
福永武彦さんの「現代語訳古事記」です。
この方は学者ではなく小説家の方です。
まったく同じところを引用してみますので読み比べてみてください。

このサルタビコノ神が、のちの阿坂(現在の三重県松阪市にある)である阿耶訶(あざか)にいた時に、たまたま魚を捕っていて、比良夫(ひらぶ)貝にその手を挟まれて、海に溺れた。
彼が溺れて水の底に沈んだ時の名を、底に届く意味の底度久御魂(ソコドクミタマ)と言い、水の底から泡がぶくぶくと立ちのぼった時の名を都夫多都御魂(ツブタツミタマ)と言い、泡のぱっと割れた時の名を、阿和佐久御魂(アワサクミタマ)と言う。


更にもう一冊!
中村啓信先生の「新版古事記 現代語訳付」も引用します。
これは上記の二冊と違って、「原文」「読み下し文」「現代語訳」が全文載っている本です。
これ一冊で古事記が全部分かる優れものです!

その猿田毘古神であるが、阿耶訶(あざか)においでになった時に、漁をして比良夫(ひらぶ)貝に自分の手を噛み挟まれて、海水に沈み溺れた。
そして、海底に沈んでいた間の名前を、底に着く御魂といい、海水がつぶつぶに泡と立つ時の名前を、粒立つ御魂といい、その泡が海面にはじけた時の名前を泡咲く御魂という。


まずはここまで。
このシーンには数々の不可解な点が有ります。
まず、一つ目。
・この話がいつのことか分らない
これはウズメに送られて帰ってきた後の話なのか?
でも猿田毘古が溺れているシーンにウズメはまったく登場しません。
では、過去の話なのか?
でもどうして過去の話を突然ここで挿入しているのか分りません。
そして二つ目。
・猿田毘古が溺れているときに三つの魂が生まれますが、これは一体なんなのか分らない
これらの魂は、この後一切登場しません。
なのでこれらがどういう役割を持っているのかさっぱり分りません。
また、これらの魂が猿田毘古とどういう関係にあるのかも分りません。
さらに三つ目。
・結局猿田毘古は溺れて死んだのか?それとも助かったのか?も分らない
猿田毘古はこの後再登場はしません。
この魂たちは死んだ猿田毘古の魂なのか?
でもはっきり溺れて死んだとは古事記に書いてないのです。
死んだ神様の体からモノが生まれることは今までにありましたが(スサノヲが殺したオオゲツヒメという穀物の神様は頭から蚕・目から稲などが生まれていた)、魂が生まれるというのはちょっと趣が異なっているように感じます。
最後の四つ目。
・ウズメはなぜ猿の名前を受け継いだのか
はっきりいって凄く唐突な気がします。
でも、何となくここに謎を解く鍵が隠されているような気がします。

猿の名を受け継いだウズメの子孫である猿女の君の一族は、稗田阿礼の一族です。
この話を語ったのは稗田阿礼自身のはずなので、そうすると阿礼はちゃっかり自分の一族の起源譚を古事記に載せたことになりますね。
前にも書いたとおり、物事の起源は古ければ古いほどよいとされています。
自分たちの一族の起源が神話時代にあると語ることは、今の自分たちの一族の保証になるのです。
神話を語ることは今を保証することです。
つまり、「ウズメが猿の名を継いだ」という過去があるのではなく、「猿女の君の一族が今いる」ということが重要なのではないでしょうか。
「猿女の君」が今いることを保証するために登場したのが「ウズメ」であり、彼女を始祖と語るために「猿の名を受け継いだ」ことにしたのでは・・・。
少しうがちすぎでしょうか。
でもそうすると、猿田毘古の生死が曖昧なのは、分らないからではなく語る必要が無かったから、とも考えられる気がします。
実は私は省略してしまいましたが、ニニギに付き従ってきた神々はウズメだけではなくたくさんいます。
そして彼らそれぞれが古事記が書かれた当時に力を持っていた一族の始祖であることが書かれているのです。
でも、彼らの中でこんな風に個別に取り上げられているのはウズメだけです。
ここでもおそらく稗田阿礼のえこ贔屓考えが働いていると思います。
ウズメと猿の名前を関係付けるために猿田毘古を登場させ、さらに猿田毘古を詳しく書くことで、猿の名前をより印象付ける意味があったかもしれません。
古事記ではよく使われている手法です。
三種の神器それぞれに由来を書くことで(草薙ぎ剣:ヲロチの尾から出てきた、八咫鏡:アマテラスが岩屋戸にこもったときに姿を写した、八尺瓊勾玉:アマテラスが生まれたときに父イザナキから貰った)三種の神器を特別視させ、そんな凄いものを授けられたニニギは特別なお方なのだと意識付けしているというわけです。
というわけで、猿田毘古を特別に書く(溺れて魂が生まれるなんて凄いことです)ことによって、その猿の名前を特別視させ、そんな凄い名前を受け継いだウズメは凄いといいたいのです(たぶん)。
なので、ここでは猿田毘古が死んだのか生きているのかが重要ではなく、猿田毘古をより凄そうに書くことが重要だったのではないかと。
更には死んでしまうのはやはり縁起が悪いけど、だからといって生きていることにすると、猿の名前よりも猿田毘古自体に関心が向くのであえてぼかして書いているのではないかと考えてみました。
以前にも古事記が意図的にぼかして書いたと推測したエピソードがありました。
覚えておられる方はいらっしゃるでしょうか?
スサノヲとアマテラスのウケヒの話です。
ここでもスサノヲは勝ったと宣言しますが、そもそもウケヒの前提が始めに述べられていないことで不完全なウケヒとなっており、アマテラスがはっきりと負けたとはいえない状況になっています。
古事記の内容が意味不明なときは、あえて意味不明に書いている可能性があるかもしれません。
よって、
・いつのことか分らない⇒いつのことか語る必要が無い(猿田毘古を特別視するための挿話で、神話本編に関係がないから)
・三つの魂は何か⇒特別さを演出するための描写(特に役割があるわけではない)
・猿田毘古は生きているのか死んだのか⇒生きていても死んでいても都合が悪いので、あえてぼかした
・ウズメが猿の名を継いだ理由⇒ウズメが猿の名を受け継いだ話がしたかったのではなく、稗田阿礼の一族「猿女の君」の由来を語るための話だったので、登場人物が「猿」の名を継いで話がまとまる形になっている

かなりうがった考え方に基づいた解釈をしてみました。
さすがにちょっと無理がある気もしますが、これも一つの案ということで。

さて、今回はここまでです。
近いうちに「ナマコを切り裂くウズメ」の話に言及します。
・・・とはいえ、ここで書きたいことのほとんどを書いてしまったので、ウズメの話はかなりさらっと流す予定です。

【追記】

ゆきさま

引用無しにてご返信いたします!

読み終わりました!
全裸の佐保彦ばっちりいました!(どんな報告)
というか歌凝姫と須久泥の番外編ですって!?
わあああああああああああ!!!!
気になりすぎます!
さっそく密林でポチってきました・・・(また本がf(ry
これを読まねば全部読んだことにはなりませんね!
貴重な情報をありがとうございました!

コメントありがとうございました!!
ゆきさまのまたのお越しを心よりお待ちしております!!

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