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苑上という人

昨日鈴視点の阿苑夫婦について色々書いていたときに何となく原作が気になったので(自分の妄想が激しすぎる気がして←今更ですよね)、薄紅天女(下)苑上編を頭から読み返してみたのですが、かなり滾りました!(知ってたけども)
普段は竹芝での話を書くにあたって阿高編の前半の竹芝の描写のある部分を主に読み返してにやにやしてるんですが、苑上編は苑上の内面がかなり克明に記されていて、まず始めに初期の苑上がどれほど飢えていたのかを凄く思い知らされます。
小さい頃から活発で、祖母の高野上にも可愛がられて幸せだった頃。
高野上の台詞に

「この子はわたしと同じように、遠くまで行く活力があるよ」

というのがあるのですが、苑上はこの言葉がとても嬉しかったんだろうなと思いました。
自分の活発さを唯一ほめてくれる人。
そんな人から言われた言葉はずっと先まで苑上の自信に繋がっていったのではないでしょうか。
それをふまえてみると、初期の苑上の焦燥感は、この高野上の期待に応えたいと(無意識的に)足掻いているようにも見えてしまってかなり胸が詰まりました。
苑上にとって高野上は唯一の理解者であり、憧れの人でもあり、だからこそこの人に認められることは彼女自身何よりの誇りだった・・・・とかはかなり妄想の域ですが。
そんな高野上や、やはり娘として慕っていたであろう母親が相次いで皇のために命をかけて、そして死んでいったことは、苑上には悲しみ以上に使命感をかき立たせることであったかもしれません。
次は自分が皇のために何かしなければ。というような。
苑上にとって祖母と母の死は、単純な喪失ではなく、誇りと責任を持って成し遂げたその結果という思いもあったのではないかと思います。
だから「どんなに悲しみに目がくらんでも(文庫P234)」「思いを内に籠め(文庫P234)」て泣くこと(=死を悲しむこと=死を否定的に捉えること)はしなかった(=彼女たちの死に誇りを感じた。もしくは誇りを感じることで悲しみを乗り切った)。
しかし、苑上は途中でその誇るべき皇そのものが最も忌むべき怨霊を生み出していたことに気付いて「今までにつちかってきた誇りがみじんに砕け(文庫P164)」てしまう。
それこそ「胃の中のものを全部出してしまう」ほどの衝撃だったわけですね。
これは本当に相当なことだったと思います。
今まで生きてきた土台が崩れ落ち、自分の存在意義さえ曖昧になってしまう。
そうなると気持ちの上では生きているのか死んでいるのかもあやふやになるでしょう。
そして、そんな彼女のどん底の状態に、まるで惹かれたかのように「闇」がやってくる。
この「闇」は、たとえば空色勾玉の稚羽矢が囚われながら夢見ていた「闇」とは全く質が異なるもので、同じく「死」というものを内包していながら「憩う」のではなく「拒絶」や「激しい恐怖」を感じるものであり、「死」を「与える」のではなく「生」を「奪う」ものであり、「神の御業(みわざ)(=自然の摂理)」ではなく「人の業(ごう)(=人為的で淀んでいるもの)」によるもの。
そんな「闇」に一瞬囚われかけるけれど、間一髪で我に返って、そしてまた阿高に救われる。
そうして苑上は気付いてしまった。
怨霊が皇であるなら、阿高はそれに対抗し滅ぼす力を持っている=皇を滅ぼす人物となるということを。
この時点ではまだ皇を滅ぼしかねない「強大な力」に苑上は恐れを抱いている。
しかし苑上はその力を持っている「阿高という人物」が、驚くほどに等身大の青年でしかないと知る。(ex鈴鹿丸を男の子と思い込んでいた等)
「現実離れした力」を持つのが「普通の青年」でしかない阿高というギャップは、徐々に彼女の中で昇華し、別の視点と価値観をもたらすことになる。
そして彼女は新しく決意する。

(わたくしにはまだ、するべきことがある・・・・・・)(文庫P185)

この、この、台詞が、大・変!好きでして!(長すぎる前置き)
一度はメタメタに打ちのめされてしまったのに、それでも負けずに立ち向かっていく強さがとても好きです!
しかもそれが阿高の人間らしさに触れたから(曲解)というのがまたぐっとくる!
彼女はもともと女である自分が誰からも必要とされていないと思い込んでいて、男になることで現実から逃げ出してしまっていたわけですが、結局男のなりをしていても大したことは出来ないと短い旅の中で段々と痛感していく。
そんな中で阿高の人知を超えた力や恐ろしい怨霊に立ち向かうのが、等身大の青年のまま足掻いているという姿に自分を重ねて勇気を貰ったのではないかと思うのです。
そして、藤太に女とばれていたと言われて、ようやく「都合のいい理想の自分(男)」を夢見ることから吹っ切れて、弱い自分を受け入れて「今のままの自分(女)」でやれることを精一杯やろうと思ったのではないかなと!(曲解2)
それを阿高に一番に聞いて欲しかったので、転げまわりながら阿高を探しに行くところに繋がるのです。(私の中では繋がっているのです←勝手に言ってろ)
いいね!いいね!この強さ!直向さ!もうホント堪らなく好きだね!
そしてもう一つ。
苑上は「皇」に対して始めの頃に持っていた「誇り」や「自信」をこの旅を通して家族への「愛着」や「慈しみ」のようなものに変質させていくのではないかと思いました。
「弱さ」を知って受け入れたからこその「強さ」は、単なる理想だけの強さとは比較にならないほどの大きな力でしょう。
自分の弱さを認められたということは、さらに他の人の弱さも受け入れることができるようになる(慈しむということを知った)のではないでしょうか。
苑上が始めの頃頻繁に賀美野に「やさしくできない」と言っていたのは「やさしさ」は「責任」や「自尊心」などに立脚するものではなく、「愛情」や「慈しみ」から自然と生まれてくるものだからで、これ以降伊勢に行ってからの苑上は賀美野のために火の海に飛び込んでいくし、その後も賀美野が寝るまでずっと傍にいて世話を焼きますが、始めの頃のような不満は全く見えなくなります。
「強さ」と「やさしさ」を備えた苑上!なんて素敵!
ここで仲成の始めの予言めいた台詞が活きてきますね。

「やさしさは強さの裏打ちあってのものだということを、皇女さまもこれから知っていかれるでしょう」(文庫P57)

おおおおお!(落ち着け)
再読ってホントこういう事前の仕掛けというか伏線が分かるので初読とはまた違った楽しみがありまくりですよね!
ホント楽しい!凄く楽しい!
阿高編はこれはこれで楽しいのですが、苑上編の楽しさは物語の後半ということもあってまた格別ですな!
好きだ薄紅天女!

・・・暑苦しくて大変スミマセンでした。

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コメント一覧

Re:当サイトは11歳になりました
2021/12/09 20:35 兼倉(管理人)
Re:当サイトは11歳になりました
2021/11/27 12:01 りえ
Re:お返事です!
2021/05/09 13:07 兼倉(管理人)
Re:お返事です!
2021/05/03 11:50 mikayasi
Re:お返事です!
2021/05/03 11:19 兼倉(管理人)